番記者リポート

読売新聞夕刊 2007年11月27日(火曜日)


野村監督「捕手の快感」若手に伝道

2月5日夜、沖縄・久米島のホテルのロビー。楽天の春季キャンプ宿舎で、捕手ミーティングを終えた野村監督に、その内容を教えてもらおうと、記者数人で話を聞いた。
「いかにキャッチャーが大事か、そこだけ分かってくれればいい」。そう話し始めた監督の傍らを、新人捕手の嶋が通りかかった。「嶋、今日のミーティングどうだった」。監督に呼び止められたルーキーは「今まで聞いたことのない話ばかりでした。もっとやってほしいです」と答えた。プロの知識を吸収しようと貪欲なその姿勢に、野村監督はニヤリと満足そうな笑みを浮かべた。
そこからは嶋を交えて、さながらミーティングの番外編となった。「良いピッチャーは誰が受けたって一緒。箸にも棒にも引っかからないピッチャーを勝たせる、あの痛快感、爽快感はキャッチャー冥利に尽きる」。捕手論になると、野村監督は止まらない。嶋と記者は直立のまま、ありがたい“講義”を聞かせてもらった。取材が終わったころ、時計の針は午前0時近くを指していた。
今季の嶋は正捕手の座を獲得してチームの4位浮上にも貢献。打率1割8分3厘、12球団最多の捕逸13など、課題は残ったが、オールスター戦にまで出場するとはキャンプ時には想像できなかった。
11月4日、宮城球場日本シリーズの解説でチームを離れていた監督が秋季キャンプに再合流した。早速、ベンチ前を通った嶋をつかまえ、「日本シリーズ見てたか」と聞いた。
見ていたという新人捕手に、野村監督はこう言って、周囲を笑わせた。「解説しながら、『嶋は見てるかな』って思ってたんだよ。言いそうになったよ、『嶋、見てるかー』って」
監督がクライマックスシリーズ日本シリーズの解説を引き受けたのには、その戦い方を視察、研究する目的もあった。嶋にも、そういう視点で見ていてほしかったのだろう。野村監督は来季を野球人生の集大成と位置付けている。育ててきた若き扇の要を従え、Aクラス入りを狙う。